日毎に寒さがつのる季節になりました。
新型コロナへの懸念が完全に払拭されたわけではありませんが、これから続くクリスマス、お正月と心浮き立つイベントを楽しみにしている人も多いのではないでしょうか。
ところが、毎年この季節になると朝に起きづらくなって、日中は眠気が強く、何事も億劫(おっくう) になって、不活発な生活に陥ってしまう病気があります。冬季うつ病です。いったいどのような病気なのでしょうか?
秋から冬の間に不活発さが
うつ病の中には春先や秋口など特定の季節や時期に発症するタイプがあり、「季節性感情障害」と呼ばれます。その中でも秋口から調子が悪くなり、春先に自然に回復するタイプのうつ病は冬季うつ病と呼ばれます。10月ぐらいから徐々に億劫さが強まり、仕事や勉強に意欲が湧かず、人と会いたくないなど不活発さが目立ち始めます。
ほかにも、気分の落ち込みやイライラ感などが見られることもあります。うつ症状は年末から2月頃にかけてもっとも強くなり、その後徐々に軽快して3月下旬には自然に回復します。
うつ病の発症には、人間関係のストレスや近親者が亡くなるなど何らかのきっかけがあることが多いのですが、冬季うつ病ではそのような心理社会的な原因が無くても、秋口に自然に発症し、春先に自然に回復するのが特徴です。10代から20代の若年時に発症し、女性に多いのが特徴です。夏場には逆に軽い 躁(そう) 状態になる人もいます。専門的には双極II型障害(躁うつ病の一種)と呼ばれます。
夏場よりも3~5kg以上も体重が増え
冬季うつ病の患者さんには、睡眠や食行動にも不思議な変化が生じます。一般的にはうつ病患者さんの8割以上は不眠や食欲低下に悩まされます。ところが、冬季うつ病では他のうつ病と異なり過眠と過食が出現するのです。過眠とは眠気が強くなる症状で、睡眠時間が長くなるため朝に布団から出るのがつらく、日中にもボンヤリし、授業中や業務中に居眠りをしてしまうこともあります。
食事にも変化が表れます。炭水化物、具体的にはご飯(お米やパン)の量が増え、さらにお菓子やケーキなどの甘い物への欲求を抑えることが難しくなります。そのため、夏場よりも3kgから5kg以上も体重が増える患者さんがいます。よく眠るし、体重も増えるので周囲にも心配してもらえず、「寒いから怠けたいんだろ」「冬眠みたいだな」などと誤解を受けることもしばしばです。ところが、このような食行動の変化は冬季うつ病の原因と密接に関わっていることが分かっています。
寒い時期に生じやすい体内メカニズムの変化
冬季うつ病は主に脳内の脳内伝達物質であるセロトニンの機能低下によって発症すると考えられています。しかもその機能低下の原因が冬季の日照量の減少であることが分かっています。
目から入る太陽光は物を見るためだけではなく、一部は体内時計(脳内の 視(し)交叉上核(こうさじょうかく) )を経由して交感神経を活発にし、血圧や心拍数を上げたり、セロトニン機能を維持したりするなど、さまざまな生体機能を調節しています。
日が短くなる冬季には1日の日照量が減るため、健康な人でもセロトニン機能が低下しますが、冬季うつ病の患者さんはその度合いが大きいのです。とりわけ緯度が高い国・地域ほど冬季に日照量が減るため、北欧やカナダ、日本国内では北海道や北日本の日本海側での発症率が高いことが知られています。
さて、なぜ冬季うつ病の患者さんは炭水化物や甘い物が食べたくなるのでしょうか? 簡単に説明すると、炭水化物や甘い物を食べて血糖値が上がると、 膵(すい)臓(ぞう) からインスリンが分泌され、その作用によってセロトニンの原料となるトリプトファンが脳に入り込みやすくなるのです。炭水化物や甘い物を食べたくなるのは、低下したセロトニン機能を補おうとして無意識に行う生体防御反応であると言えます。
不調の原因に気づきにくいので
このように冬季うつ病は一般的なうつ病と異なり、日照量の減少という季節要因で発症する珍しいタイプのうつ病です。夏と冬で睡眠や食欲が大きく変化し、寒い季節になると生活に支障が出てしまう人が、成人の約2%程度いることが国内の調査で明らかになっています。
ただし、冬季うつ病で医療機関を受診する人は多くありません。原因が日照量によって生じていると気付かず、人知れず我慢をしている人が大勢いると考えられています。
意識的に外に出て太陽光をよく浴びることで症状が軽くなる人もいます。人工光を放つ装置を使って、毎日30分~1時間ほど光を浴びる高照度光療法という治療法もあります。また、うつ症状が強い場合には冬季間だけ抗うつ薬を活用するのもよいでしょう。この季節、原因不明の億劫さなどに悩まされているのなら、医療機関で相談することをお勧めします。